ある仕事に見積もりを出しました。数週間後、似た仕事が来て、今度は口から別の金額が出ました。どちらも同じ仕事に見えます。
問いはそこから生まれます。答えは意外なことが多いのです。どちらも正しかった、二つは同じ仕事ではなかったからです。
この記事は、金額がなぜ動くのかと、見積書に何を書いておくべきかについてのものです。
動いているのは金額ではなく範囲
同じ一文で説明された二つの仕事は、中身がかなり離れていることがあります。「在庫管理を入れたい」という一文は、店では三つの商品群、倉庫では四百点を意味します。
金額を決めるのは仕事の名前ではなく、その中に何が入っているかです。そして仕事がまだ説明されていないなら、口から出た数字は金額ではなく見当です。
困るのは見当が外れているからではなく、相手がそれを金額として記録するからです。こちらは「だいたい」と言い、お客さまは見積もりとして受け取ります。
金額を動かす六つの項目
同じ仕事を二つの数字へ導くのは、たいていこの六つのどれかです。
1. データがどこから来るか。 既存のシステムから読めるなら仕事は小さくなります。手入力なら入力画面も作ることになります。他社のソフトから取るならその会社の許可が要り、これはこちらの手の届かない待ち時間です。
2. 何人が使うか。 一人分の記録と、十人が同時に入力するシステムは同じ仕事ではありません。権限、衝突、変更履歴が後者では必須になります。
3. 古いデータを移すか。 ゼロから始めることと、三年分のExcelを移すことはかなり違います。古いデータが乱れていれば、片づけのほうが仕事本体より長引くこともあります。
4. 帳票が何枚、どの頻度か。 画面一つと、日次・週次・月次・年次の四種類の帳票は同じ手間ではありません。帳票の数はたいていの見積もりで語られず、あとから増えます。
5. 教育と引き渡しが含まれるか。 システムを作ることと、使えるようにすることは別の仕事です。利用者教育が話されていなければ、納品後に何週間も電話が続きます。
6. その後だれが面倒を見るか。 月額の保守があるなら、その範囲を書いておく必要があります。でなければ「ちょっとここ直して」という依頼が無償の仕事として積もります。同じ話は自動化の案件がうまくいかない理由でも触れています。
見積書に書いておくべき三行
込み入ったひな形は要りません。三行あれば、たいていの議論は始まる前に片づきます。
範囲。 何をするのかを、数字で。「在庫管理」ではなく「商品群三つ、利用者一名、画面一つ、帳票二つ」と書きます。
範囲外。 何をしないのか。この行は妙に見えますが、いちばん役に立つ行です。書かれていないと、新しい依頼はすべて範囲内として数えられます。
期間の起点。 どの日から暦が動き始めるのか。こちらの手の届かない待ちに左右されるなら、そのまま書きます。期間の詳しい話は自動化はどれくらいかかり、いつ効いてくるのかで測られています。
「とりあえずこのくらい」が後で高くつく理由
早い段階で数字を出すと、相手の中に錨が下ります。あとから範囲が広がったとき、上げることは値引きの取り消しのように受け取られ、信頼を揺らします。
下げるのは易しく、上げるのは難しい。だから範囲を書く前に出した数字は、実のところ上限を置いていることになります。
言うべき一文はこうです。範囲を一緒に洗い出して、そのうえで金額を書面でお出しします。売り手というより、仕事を知っている人の言い方になります。
お客さまが値引きを求めたら
値引きの相談が来たとき、道は二つあり、行き着く先はかなり違います。
数字から引くこと。 同じ仕事をより安く引き受けること。最初の数字が水増しだった印象を残し、次の仕事でも値引きが期待されます。
範囲から引くこと。 金額を下げる代わりに項目を一つ外すこと。「この予算なら帳票は二つではなく一つ、二つ目はあとで足します」と言うこと。金額と仕事の釣り合いが保たれます。
二つ目は今日と明日を同時に救います。そしてお客さまに一つ伝わります。金額は気分ではなく、範囲に従うのだと。
自分の原価を知らずに金額は出ない
ここが金額の話の見えない側です。その仕事が自分にとって何時間かかるのかを知らなければ、出した数字が利益なのか損なのかも分かりません。
そのために込み入った帳簿は要りません。仕事中の時間をざっくり書き留めておけば、三件目で本当の土台ができます。記録を取るだけでは追いつかなくなる地点はExcelでの顧客管理が追いつかなくなるときで扱っています。
そしてこの違いが効きます。安い金額はお客さまを呼び、間違った金額はお客さまを失わせます。損で受けた仕事は、品質が落ちるか、納期が延びるかのどちらかです。どちらも紹介を持っていきます。
決める前の四つの問い
1. この仕事を前にやったことがあるか。 あるなら本当の所要時間を持っています。ないなら出した数字は見当であり、それは自分にも言っておくほうがよいのです。
2. 範囲を書き出したか。 書いていないなら金額はまだ形になっていません。会話で出た数字は、書面の見積もりの代わりにはなりません。
3. 自分の手の届かない待ちがあるか。 第三者の許可、お客さまの書類、機材の到着。あるなら期間はそこから始まります。
4. この金額で仕事を終えられるか。 守れない金額を受けることは、仕事を取ることではなく、問題を買うことです。範囲がどこまで伸び縮みするかは個別開発か既製パッケージかにも出てきます。
まとめ
同じ仕事に二つの金額が出るのは矛盾ではなく、たいていは測り損ねです。二つの仕事は同じ名前を持っていましたが、同じ範囲は持っていませんでした。
することは数字を守ることではなく、範囲を書くことです。範囲が書かれれば金額はおのずと出て、話は金額から範囲へ移ります。そこでなら双方とも話しやすくなります。
隣り合う判断については人を雇うべきか、自動化すべきかをご覧ください。
よくあるご質問
お客さまがすぐ金額を求めたら何と言えばよいですか。
範囲を洗い出すために短い時間をいただくのは筋の通った対応です。「何をするかを一緒に固めて、金額は書面でお出しします」という一文は誠実に響き、範囲のない数字から守ってくれます。
幅で出すのと一つの数字、どちらがよいですか。
範囲が定まらないうちは幅が無難に見えますが、相手はたいてい下限を覚えています。幅を出すなら、何が下限を決め何が上限を決めるのかを同じ文に書いておきます。
見積もりが他社より高くなったら。
まず二つの見積もりの範囲を比べます。安いほうの見積もりは含まれる仕事が少ないことが多いのです。比較が範囲の上で行われれば、金額差はおのずと説明がつきます。
範囲外の行はお客さまを遠ざけませんか。
たいていは逆になります。含まれないものを書くことは、含まれるものが定まっている証しになります。曖昧さを残した見積もりは、引き渡しの段階で議論を生みます。
仕事の途中で範囲が広がったらどうしますか。
その場で書面にしておくと役に立ちます。「この追加でこれだけの時間とこれだけの費用が増えます」と伝えるほうが、終わってから話すより易しく、関係も保たれます。
